和紙の中に、野の花や海藻が、摘んだときの姿のまま閉じ込められています。能登仁行和紙(のとにぎょうわし)は、輪島市三井町の山里で漉かれる、能登半島でただひとつの手漉き和紙です。
山あいの集落の名前
「仁行」は、輪島市三井町の山あいにある集落の名前です。三井町から川沿いの道を5kmほど山へ入ったところに、里山と小川に囲まれた工房があります。紙漉きは昭和24年(1949)に遠見周作さんが始めたもので、いまは遠見京美さんと、三代目の和之さんが漉いています。

捨てられる杉皮から
仁行和紙を代表する紙のひとつが、スギの皮を使った「杉皮紙」です。製材所で杉の皮が捨てられていくのを惜しんだ初代が、紙に生かす方法を考えたと紹介されています。黒みがかった茶色の、素朴な風合いの紙です。工房では、楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)の紙も漉いています。

紙ができるまで
工房では、原料の繊維を木槌で叩いてほぐし、漉き舟(すきぶね)で水に溶きます。簀桁(すけた)で原料をすくい上げ、揺すって繊維をならしながら、一枚ずつ紙を漉いていきます。野の花を漉き込むときは、漉いた紙の上に花や葉を置き、上から原料を少しずつ流しかけて閉じ込めます。

野の花を漉き込む
京美さんの代表作が、野の花を漉き込んだ「野集紙(やしゅうし)」です。季節ごとに摘んだ花や葉を使うので、同じ紙でも季節によって表情が変わります。漉き込まれる素材は花だけではありません。地元の土、籾、みょうが、海藻のアオサ、小豆、そして桜貝。紙の中にそれぞれが自然な姿のまま現れます。
土を漉き込んだ「土入り紙」は、三代目が開発した紙です。茅葺きの家など古い建物が残る三井町で育ち、日本の伝統的な土壁を後世に残したいという思いから生まれました。ざらりとした凹凸のある手ざわりは、和紙でありながら現代アートのようにも見えます。
地震と豪雨を越えて
令和6年(2024)1月の能登半島地震では、工房の貯水槽などが大きな被害を受けました。同じ年の9月には豪雨で工房が浸水し、紙や材料、工房の前で育てていた野の花も流されました。高知の紙漉き職人が足りない材料の手配を助けるなど、各地からの支えを受けながら、紙漉きは続けられています。
NORTAの仁行和紙
NORTAでは、奥能登でとれる海藻ホンダワラを根ごと漉き込んだアートパネルや、海藻・桜貝・土を漉き込んだ和綴じノートをご紹介しています。素材の入り方は一枚ずつ違い、同じものはひとつもありません。
写真・動画:能登仁行和紙の工房にて撮影(NORTA)
参考:ISICO「能登仁行和紙」/能登の里山里海「能登仁行和紙」/能登ルネッサンス「能登仁行和紙」/一般社団法人カミスク「『能登仁行和紙』の魅力に出会う」(2025年5月)/NHK WORLD-JAPAN「A Treasured Creation: Paper from the Wild」番組紹介
Wildflowers and Seaweed in Paper: Noto Nigyo Washi
Noto Nigyo washi is the only handmade paper still made on the Noto Peninsula, in Nigyo, a hamlet in the hills of Mii-machi, Wajima. Papermaking there was begun in 1949 by Tomi Shusaku and is carried on today by Tomi Kyomi and third-generation maker Kazuyuki. Its signature cedar-bark paper is said to have grown from the founder's wish not to waste bark discarded at sawmills. The fibers are beaten with a wooden mallet and loosened in the vat, then scooped up with a screen frame (suketa) and rocked to form each sheet; for flower papers, petals and leaves are laid on a fresh sheet and sealed in with a thin pour of pulp. Wildflowers, local earth, rice husks, aosa seaweed and sakura shells all find their way into the sheets, so each one is different. The workshop was damaged in the January 2024 Noto earthquake and flooded that September, and papermaking continues with support from fellow craftspeople. At NORTA you'll find art panels with hondawara seaweed from Oku-Noto and Japanese-bound notebooks set with seaweed, sakura shells and earth.



